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[ バベル ]愚かさの向こうに・・・
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    [ バベル ]を吉祥寺で鑑賞。

    きくりんこと菊池凛子がアカデミー賞助演女優賞ノミネートで俄然注目を浴び、今なおロングランで劇場上映されている[ バベル ]。
    監督は、これがまだ長編3作目のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ。1作目[ アモーレス・ペロス ]から2000年のカンヌ国際映画祭批評家週間でいきなりグランプリを獲得し、ここまで作品に外れなし。
    [ アモーレス・ペロス ]を最初に観たのは、東京国際映画祭でのグランプリ上映の時。今でこそ、複数の物語を交差・シンクロさせていく手法は目新しさはないが、当時はメッセージとあわせてとても斬新でショッキングな映像だったので、日本で正式上映になった時には2度も観に行った。
    なにせ、アレハンドロ監督作品には、監督以外にも世界が注目する名だたるスタッフが関わっている。面白くないわけがない。
    BABEL ばべる 混乱
    本作で脚本・原案を務めたギジェルモ・アリアガは、トミー・リー・ジョーンズ監督の[ メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 ](05)の脚本を、撮影監督のロドリコ・プリエトは[ ブロークバック・マウンテン ](05)などを手がけ、それぞれカンヌ国際映画祭脚本賞、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。

    こうみると彼らもまた、アレハンドロ監督のように、[ アモーレス・ペロス ]でみられたプロットや繊細な視覚効果が各々の作品にも見事に表現されている。脚本家ギジェルモ・アリアガは、[ メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 ]でも時間をパズルのように交差させて、複数のストーリーを紡ぎ、ロドリコ・プリエトは[ ブロークバック・マウンテン ] [ 8マイル ]などほとんどの作品で車内などの狭い空間が登場し、その場所への外光やフィルムのトーンを利用して、主人公たちの意識を繊細に表現しているのだ。

    ハリウッド映画だけに、ブラッド・ピットやアカデミー賞女優、ケイト・ブランシェット、そして今注目のガエル・ガルシア・ベルナルや、日本からも役所広司や菊池凛子などが出演し、俳優陣にどうしても目が奪われがちだが、この作品の魅力はスタッフ陣によるところが大きいのだ。ギジュルモ・アリアガとロドリコ・プリエトは要チェックです。

    では、そろそろ本作について。1作目ではメキシコのみが舞台であったが、3作目となると、モロッコ、メキシコ、日本と3カ国をまたにかけての展開です。

    はるか遠い昔、言葉は一つだった。人間たちは神に近づこうと、天まで届く塔を建てようとした。怒った神は言葉を乱し、世界はバラバラに・・。

    まるでこの旧約聖書の物語をなぞるように、本作に登場するバベルの末裔たちは、愚かな行動をとる。

    モロッコの山羊飼いの少年たちは、大変なことになることが予想できたにもかかわらず、意地の張り合いにより、バスにめがけて発砲する。妻の肩を撃たれた夫リチャード(ブラッド・ピット)は、必要以上に騒ぎたててツアーの同行者に迷惑をかける。
    アメリカ人夫婦の子ども2人を面倒みている乳母アメリア(アドリアナ・パラッサ)とその甥サンチャゴ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は不法移民、見つかれば即刻強制送還という身でありながらも、慎重さにかけ、あげくに助けを求めるために砂漠に子どもたちを置き去りにする。発砲事件の発端となった銃の所有者ヤスジローも、問題こそ起こさぬものの、犯罪の道具になりかねない銃を他人へ渡してしまうとは、これまた軽率ともとれる行動に。

    それらは、もう少し考えれば、違う対処ができたはずではと思えてしまうような、せつない気持ちになる振舞いだったりする。

    天まで届く塔を建てようとする人間の傲慢さは、子どもたちがライフルでバスを狙った高台やヤスジロー親子が暮らす高層マンション、クルマを覗き込む職質をするメキシコの警官の態度(人を見下ろしている)という画にあらわれている。

    そして神が怒って乱した言葉は、聾唖の少女、国家の国交断絶、山羊飼いの親子と警察官など・・・。(通訳を介しての成り立たぬ会話もあったが)その他は国家間のこと、身体的な違い、あるいは偏見と、あえて言葉以外のものを抽出し表現している。監督は現世界のコミュニケーション不全なしくみ(構造)を憂いているようでもある。

    しかし居なくなってこそ、はじめてその人のありがたみがわかるように、ある時にふと気づかされる。愚かさは、人間が生きているうえでは必ずやつきまとうもの。気づくきっかけは、人間の意識の中にこそあるのでは。意識が変われば、傲慢さは実は寂しさの表れであり、聞き分けられぬ言葉も、聞き手のエゴからそう聞こえてくる。

    象徴的なのが、エロスなシーン。
    モロッコの兄弟は、弟ユセフ(ブブケ・アイト・エル・カイド)が姉の裸をのぞいているのを兄アフメッド(サイード・タルカーニ)が許せないのが原因で、兄弟は憎しみあっていた。またリチャードは、銃弾を受けた身体で妻スーザンがおこなう小便を手伝うことで、離れたはずの気持ちがつながっていく。同じエロスでも、かたや憎しみを、一方は慈しみを生むのだ。

    聾唖のチエコは、好意や欲望、あるいは寂しさを埋めるために言葉が話せない分、コミュニケーションのひとつの手段として、裸になる。彼女にとってはぬくもりであり、コミュニケーションの一手段
    なのだ。

    チエコの全く音のない世界は、僕にはわからない。
    アレハンドロ監督には珍しく、喧騒のある東京・渋谷という都会、それもディスコを舞台にし、ディスコという爆音の中に、一瞬静寂した空間をインサートして彼女の世界を観客にも体験させようと試みる。びっくりするような彼女の行動も彼女が生きている世界や心の闇にふれれば、僕たちの変わらないのが次第にわかってくる。
    日本、メキシコ、モロッコと、最終的には話す言葉や生活が違えども、同じような悩みを抱えているんだ。同じような愚かさも持ち合わせている。その愚かさも、人から見れば一目瞭然だが、自分じゃなかなかわからない。これもまた神が仕組んだカルマかもしれません。

    あいかわらず刺激的なシーンが多く、この映画はR指定(本当はPG指定)に相当するきわどい作品です。だから子どもは、一人で見ちゃいけませんよ。良識ある大人と観なくっちゃ。最後に、この過激さばかり目を奪われ、本質的なことが伝わらないという最悪なパターンにならないことを切に、願います。

    ■映画バベルの公式サイト
    | 映画レビュー | 10:45 | comments(0) | trackbacks(25) |
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    映画『バベル』(お薦め度★★)
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